小道具 リンゴとサンスベリア
更新日:2020年10月25日
トップページ最初の写真は、旗揚げ公演『幸福な夢』のラストシーンです。小さくてわかりにくいかも知れませんが、小道具としてリンゴを使っています。
15年ぶりに再会した夫婦の、15年前の姿を彷彿とさせるような食卓の風景をつくりたくて、色々と考えました。とはいえ、ライフラインが止まり、物資も乏しくなっているような状況の物語なので、なんでもありというわけにはいきません。
そこで最初に考えたのは、妻が持ってきた珈琲豆を夫が挽いて、ほんの少しの珈琲を分け合って飲む… というものでした。コリコリという音が響くなか珈琲の香りが漂って……いいシーンになると思ったのです。会場だったキッド・アイラック・アート・ホールの地下には素敵なブックカフェがあって、美味しい珈琲を飲むことができました。芝居を観た人が珈琲を飲みたくなって、帰りに足を運んでくれるといいな~と思ったりもしていました。でもお湯は? どうやって沸かす? と考えるとなかなか面倒になり却下。
そしてある朝、柿をむいている夫の姿がヒントになり、このシーンが生れました。稽古場にリンゴを持って行って、夫(ダンサー)役の横井さんに「皮がつながる感じでスルスルむいて欲しいんですけど、大丈夫ですか?」と伝えたところ、「大丈夫じゃない?」とサラリ。ほんとうに何でもできる人です(^-^; ラストシーンは無言劇なのですが、ほのかにリンゴの香りが漂って、少し色っぽくもあり、とてもいいシーンになったと思っています。
そして舞台下手に見える植物はサンスベリアです。まず、非日常である時間の流れの中に、何か以前の暮らしに繋がる“日常のこと”を動作として見せたいという気持ちがありました。それが二番目の写真。あれこれ考えた末、妻の思い出に繋がるサンスベリアを傍に置き、二人(?)の時間を持ってもらうことにしました。そして、舞台上に人間以外の呼吸するものを置きたいという思いもありました。人と同じくらいの比重で、そこに存在させたいと思ったのですが、観客の皆さんにはどのように映ったでしょうか……?
(「過去の公演」から『幸福な夢』の写真もぜひ見てくださいね。)
写真は、山形県の鶴岡市に暮らす夫の両親から届いたサクランボ(佐藤錦)。同級生が作っているそうで毎年送ってくれるのですが、美味しいのはもちろん、造形も色彩もほんとうに美しく、眺め入ってしまいます。
東京に暮らしていると、ついつい自然の力というものを忘れがちになりますが、大雨の被害を伝える九州の映像を見ながら、子どものころに見た、濁流となって流れる故郷の川の光景を繰り返し思い出しています。